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――富士山山頂――
夜。
月明かり以外の光源が存在しないその場所に、何かの装置が稼動する音が低く鈍く響き渡る。
冷たく薄い空気を震わせながら、それは絶え間なく耳に届いてきた。
音源は、見当たらない。
しかし、雲から突き出た巨大な火口の中に、全面を灰色に覆われた建物が存在していた。
火口の中心に石橋のようにして架かった大きな足場の上に、その建物は乗っかっている。
そこから音は聞こえてきていた。
更に、建物の中心からは異様な物体が突きだしていた。
ただの煙突のようにも特殊な砲身にもみえる巨大な筒。
それが、大小の真珠が煌めく天蓋に向かって高く長く伸びていた。
「……成功、しますよね」
その筒の根元で、夜野 裂矢(ヤノ レツヤ)は静かに呟く。
建物の二階、その中で〝管制室〟と書かれた一室。
そこに裂矢は、一人の男と立っていた。
裂矢もその男も白衣に身を包み、正面だけを見据えている。
しかし、白衣以外の二人の容姿はまるで正反対である。
裂矢は黒色の長髪に眼鏡をかけ、穏やかそうな黒い眼をしっかりと開いている。
それに対して、もう一人の――胸の名札に《ストークス・マルティワ》と書かれた男は、金髪と銀髪が入り混じるボサボサの頭と、刺々しい印象を持たせるスカイブルーのつり目を携えている。
そんな二人の目の前には大小様々なディスプレイとボタンのついたパネルがあり、それぞれが明滅を繰り返している。
そしてパネルの後ろにある分厚い強化ガラス越しには、天蓋へとのびる先程の筒が見え、その筒の周囲……この建物の一階では、白装束に身を包んだ数十人の男女が右往左往しているのが見下ろせる。
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