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「ほら、戻るぞ」
すると幸乃は俺の手を取って、女らしからぬ歩幅でずかずかと歩き出す。
「いつ死ぬか分からないんだの、やりたいことしたっていいでしょ?」
それは、と言葉を濁した俺の手を幸乃は強く握った。
そして澄んだ瞳を強く光らせた。
「私は、私の生きたいままに生きる。何かに囚われたりなんかしない」
有無を言わさない口調でいつものお決まりの言葉を発する幸乃。
それを聞いたら何も言えない俺を、知っているから幸乃はいつもそう言う。
いつも彼女は俺と共に居たいと言う。
幼い頃からの約束だからと、そう言って嬉しそうに笑うんだ。
「お取り込み中失礼ですが。屯所でも、街中でも、見せつけてくれるっすね、お二人とも」
ハッと、俺を現実に戻した藤堂の声。
幸乃も藤堂と一緒にケタケタと楽しそうに笑っていた。
「・・・うるせえぞ、お前はもういいから、帰れ」
「そんなぁ!酷いじゃないですか!あんまりだ。用が無くなったらさようなら、なんて。ねえ、幸乃ちゃん」
「何で幸乃にふるんだよ!馬鹿!」
「いいわよ?平助君も一緒に・・・」
「幸乃!」
「分かってます、邪魔なんてしないっす。どうぞ存分に楽しめばいいじゃないですか?」
急に冷めた顔してそっぽ向いた藤堂には悪いとは思ったが、久しぶりに幸乃と二人でいたいとも思う。
何しろ、もう、彼女は。
「土方さんには上手く騙しておきますから。日が暮れるまでには屯所に帰ってきて下さいね?」
そんな俺の心情を悟ったのか、藤堂はヘラっと笑って帰って行った。
「平助君!場が読める子になったのね!」
「お前、それ、凄い失礼だかんな」
嬉しそうに笑う幸乃を見たら怒鳴る気なんて消える。
ただ、こいつの笑顔を守りたい。
笑っていてくれ、幸乃。
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