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HRを終え、帰り支度に勤しんでいた降の表情は暗い。何故ならあの後に返されたテスト全てにも赤文字が刻まれていたからだ。
中学生の頃から通信簿では体育以外は高評価を頂けない程度の成績を誇っていたのだが、それでも今回は酷い。胸を張って努力をしたとまでは言えないが、ある程度は真面目に授業を受け、ある程度は真面目にテスト勉強に勤しんだのだ。
それでこの結果。高校に入学して早々に留年を危惧する生活を送る嵌めになったのだから、顔色も悪くなって当然だろう。降はため息を吐きつつ、隣の席に座るクラスメイト――雑木林の表情を伺った。
……余裕そうだな、この野郎。
爽やかな表情を浮かべていた雑木林(ゾウキバヤシ)は、不穏な気配を感じたのか降に振り返る。
「朝之坂、僕に気があるのか? まあ、僕としては一向に構わないが」
「……お前は高校に入って最初に出来た友達だから大切にしようと思っていたが、今猛烈に縁を切りたくなったぞ。気味の悪い面をしてやがったから視殺しようと思っただけだ」
「視殺? ……ああ。刺殺と刺すような鋭い視線を掛けているのか。上手いんじゃないか? 」
「解説するな」
というか、お前に褒められても嬉しくねーよ。
降から見ても容姿端麗、成績優秀、おまけに運動神経抜群の男子にお褒めの言葉をちょうだいしても嫌みにしか聞こえないと言うものである。
「因みに。全教科満点だった」
「お前は出来杉君だったのか!? 」
それからゲームセンターや大型書店でたっぷりと時間を潰し、電車通学の雑木林と駅で別れ、降は帰路に着く。
……しかし、俺の学生ライフにはどうも花が無いな。毎日、毎日雑木林を主とした野郎共と遊び呆けているけれど、たまには甘酸っぱい青春があっても良いのでは無いだろうか。
赤みが掛かっている空を眺めながら、そんな事を考えていると聞き覚えのある声が呼称を呼んだ。
「くだりお兄ちゃん! 」
「ん、廻ちゃん」
視線を前方に戻すと、髪をツインテイルにした小柄な少女が手を振りながら駆け寄って来た。降はそれに笑顔を返し、少女の身の丈に合っていないセーラー服に目をやった。
降が通っていた中学校のセーラー服。
夜之坂 歩が姿を消した当日まで着用していた物だ。
少女ーー夜之坂 廻(マワリ)は、夜之坂 歩の妹である。
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