イタダキマス

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  「今日も塾なの? 」    と、いつまでも女子中学生のセーラー服を凝視している訳にも行かないので、降は見当は付いていたが何となく訊いてみた。  夜之坂家は朝之坂家の目の前に建っているので帰り道では無いだろうし、廻が中学校に入学すると同時に母親に塾に通う事を命じられたと以前嘆いていた。    降もおばさん――廻の母親が教育熱心な母親なのは知っていたので、特に成績が悪い訳でもない廻を塾に通わせる事に疑問は抱かなかった。歩も、中学校に入学した当初同じ様にぼやいていたのだ。   「うん。今日は見たい番組あったんだけどなぁ……」   「録画して来なかったの? 」   「私、録画のやり方分からなくて。お母さんは買い物に出掛けてたし、お父さんはまだ帰って来てないから頼めなくて」    はあ、と息を吐いて肩を落とす廻に降は苦笑してしまう。歩も重度の機械音痴で、家に遊びに来た際に滅茶苦茶な操作で購入したばかりのCDコンポを壊された事を思い出したからだ。   「じゃあ俺が録画しとくよ。家に空いているビデオテープあるからさ」   「えっ。でも、わざわざ悪いからいいよ」   「いや、前にラピュタ録画する時に間違って三つ入りの買っちゃった余りだから気にしないで。番組名教えてよ」    しかも録画したのは良いのだけれど、結局見ない内に再び放送されたのだ。  まあ、あれは何回見ても面白いしな。大佐が良い味を出している。例の台詞を思い出そうとしていると、廻は申し訳なさそうに、   「カリオストロ」    と、告げた。ラピュタに負けず劣らずの名作である。   「よし任せとけ。ちゃんとCMカットして撮っておくよ」   「うん。じゃあ帰りに取りに寄らせて貰うね」    そう言って、あどけない笑顔を見せた後に腕時計を確認する。   「あ。遅れちゃうからもう行くね。また後でね。くだりお兄ちゃん」    廻は先と同じように手を振って、小走りで掛けて行った。  それをある程度見送りつつ、降はふと疑問に思う。    ーーくだりお兄ちゃん。  彼女からそう呼ばれるようになったのは何時からだったか。  降は記憶を掘り起こし、僅かに眉を潜ませた。    あの日、からだ。  夜之坂 歩が行方不明になった、あの日からだ。  
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