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目を懲らせば、思い出す………
あの頃の出来事を………
そこには、見渡す限りの赤があった……
めちゃめちゃに壊された家具。散乱する破片や小物。
それらには、まるで飛沫の様に飛び散った「赤」がこびりついていた。
そして、赤く染まった床に横たわる数多の亡骸も………
かつて子供達が父と呼び、母と呼んでいた大人達は、物言わぬ骸となって血溜まりの中に沈んでいた…………
「ぉ……ぃちゃん………お兄ちゃん!!」
「………?」
深淵の中にあった少年の意識は、不意に覚醒を迎えた。
「ファリエルか………………」
うだる様な空気の中、少年はむっくりと身体を起こした。
「む……そういえば今日はミッションだったな……『ゾイド』の調子は?」
「ん……コマンドウルフやウネンラギアは問題ナッシング。後はお兄ちゃんのセイバータイガーだけね。」
妹とおぼしき少女は、眼鏡を上げて言った。
「了解……レスター達を呼べ、姉さん達とブリーフィングに入る。」
「マイさんやリリスが声かけてくれてるわ。お兄ちゃんも支度して来てね。」
数時間後………
パイロットスーツとヘルメットに着替えた少年は、眼前に立つ巨大な兵器を見上げていた。
「久々だな、ゾイドを使う仕事は………」
この世界には、『ゾイド』と呼ばれる不思議な生命体が存在する。
数多の動物や鳥、はては恐竜といった様々な形をした金属生命体……一見ロボットに見えなくもないが、彼等は個々の意思や命を持って太古の昔より人類と共存していた存在である。
そして人は、ゾイドを機械獣として強化し、幾多の用途の為に使役してきた……あるものは土木作業や開発の為に、あるものは競技やスポーツ等の為に……
しかし……その中で最も多かったのは、戦闘機械獣として強化されるパターンであった。
長きに渡り、人々が互いに対立し合う中で、ゾイドはその多くが軍事兵器として使用される様になっていった……
しかし戦争が終結した今、そうした戦闘用ゾイドは大半が国家の抑止力としての役割に留まっていた。
だが、軍以外で戦闘用ゾイドに乗ることを許された者達がいた………
特定の派閥に属せず、自らの理念を以て戦う兵士……
『傭兵』である…………
「よし……そろそろ行くか…………!!」
深紅の虎に酷似したゾイドを見上げながら、少年-アスカ・リースクラフト-は静かに言った。
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