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死ぬ。それはもう決定されていた。辺りの惨状、この男に容赦などあるわけがなかった。
しかし、死の瞬間はやってこなかった。それは男が攻撃をやめたわけでも、男が何らかの要因で突然死んだわけでもない。
ただ“世界が止まった”のだ。
しかしそれは地獄でもあった。男が止まり、助かったと思った瞬間、辺りの惨状が目に映ってしまったからである。
いつも通り帰宅し、いつも通りの夕食が待っているはずだった。だが、料理を作ってくれているはずの母は床に倒れ、笑顔で出迎えてくれるはずの父は壁にもたれ動かず、いつも母と一緒に料理や家事をしているメイド二人は母に覆い被さって倒れている。
「酷いわね」
発狂しそうだった。あと少し、その声が届くのが遅ければ壊れていたかもしれない。
激しく脈打つ胸を抑え、痛む頭を抱え、壁に支えられながら何とか立ち上がる。
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