キミ、タカラモノ

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結婚してすぐに、わたしはボーイをやめるように頼んだ。 赤ちゃんが産まれる前に、ちゃんと昼の仕事の正社員で働いてほしかったからだ。 秋は渋々辞めてくれたが、就職はなかなか決まらなかった。 というよりは、ハローワークに行くフリをしていただけで、実際は仕事を探してはいなかったのだ。 それが分かってからは、わたしが一緒に行ける時はハローワークまで同行し、何件か印刷して受付まで持っていく。 面接も近くまで行って、終わるのを待っていた。 そこまでしなければ、秋はまともに仕事も探してはくれなかったからだ。 就職が決まっても、一カ所でもらう給料は一回だけ… なぜなら、勝手に辞めてしまうから。 次の給料日が来ると、観念して「辞めた」と言われる… その頃、男の人は、赤ちゃんが実際に産まれるまで父親の実感が湧かないと、よく聞いた。 だから、秋も、赤ちゃんが産まれれば変わってくれるのかな? いつかちゃんと働いてくれるのかな? じゃないと… もう、わたしの貯金も少ししか残ってないよ… 本当は、わたしの学費のために貯めたお金だった。 けれど、今は生活することが先。 そう思って出し続けた結果、秋にとってわたしは打ち出の小槌になっていた。
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