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机の上に放置されている煙草で、むしゃくしゃした気持ちを吹き飛ばそうと思い、腕を伸ばした時、
ヴー、と音がした。
ハッとして、床に転がっている携帯を見た。
電池パックが抜けている。
「俺だ。」
ユウノがそう言って立ち上がった。パチリと携帯を開き、ディスプレイを確認する。それから俺に向かって片手でゴメンと合図を送ると、くるりと後ろを向いて、玄関を目指した。
俺は、見た。
ディスプレイの表示に優しく微笑むユウノを見た。
素敵だと、思ってしまった。
出ていく直前、会話が少し聞こえた。
「もしもし?…うん。ごめんね?」
それから、バタンと、ドアを閉まる音を聞いた。
優しく、甘い、そんな声。
分かってしまった。
知りたくなかった。
でも、分かってしまった。
あれだけで、分かってしまう程、俺は彼に溺れてしまっている。
こんな時ばかり、察しのいい自分を呪う。そして、喜怒哀楽の感情が全て表に出てしまうアイツが憎らしい。
…仕方ないじゃないか。
あいつだって、いつまでも一人じゃないんだ。
俺と違って。
忘れろ。
もう、止めてしまえばいい。
アイツを好きになるのはよせ。
それは、何度も自分に言い聞かせてきた事だ。
だが、未だに実行できずにいる。
ちょっとした事で、やっぱり好きだと思ってしまう。浅はかな俺。
煙草じゃ足らない。
いくら記憶がぶっ飛ぶって言ったって、酒の力にも限界がある。
何か、他に無いだろうか?
はぁ…、と、少し長めのため息をついた。
その時、
背筋に、
さわりと、
風か抜けた。
あまりの冷たさに、ざわりと鳥肌がたった。
思わず窓を見る。
窓が開いていた。
「もっと、イイ物、ありますよ?」
氷のように、
鋭い声が、
脳に響いた。
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