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いつから居たのか。 初めから居たのか。 それとも今現れたのか。 恐ろしい程に、若く、美しい男だった。 少年と呼ぶのは失礼。 男と呼ぶのには幼い。 …あぁそうだ、青年。 まさにそう。青年だ。 それぐらいの年頃の男が窓に腰掛けていた。 ひょろりと背が高く、細身の黒のパンツにゆるりとした白いTシャツ。そして黒いジャケットを羽織っている。 ただそれだけなのに、神秘的に見えるくらい、よく似合っていた。 細いが程よく筋肉が付いている。 細マッチョってやつだ。 チャラララ… 可愛らしい音をたてて、瓶がコロコロと転がる音がした。 俺の足元から、俺の左手側、青年の方へ転がる。 俺はそれを目で追う。 食い入るように。 瓶の中では赤と白のカプセルが、弾けるように回っていた。 そしてそのうち、瓶は勢いを失い、緩く右にカーブして、皿にぶつかり止まった。 瓶が、割れた皿にぶつかって、カチンと鳴った高い音は、何故か、俺の体内から鳴った気がした。 背筋が、ぞくぞくする。 「綺麗でしょう?」 くすくす、と形の良い口を歪ませて、青年が笑う。 ひゅうと、また風が吹く。 彼が腰掛けている窓は、このベランダのないこの部屋で、唯一外へと向いている窓だ。 ここは、エレベーターのない5階建ての5階の部屋。 「誰だ?」 「僕?いやだなぁ。イイコトしてあげたのに、もう忘れましたか?」 ふ、と口の端だけ上げて青年が薄く笑った。 それを見て、ふつ、ふつ、と体の奥が、疼くような感覚に襲われる。 太ももの付け根に、違和感。 「僕は、貴方を裏切らないですよ?」 決して、力強い声ではなかったけれど、その言葉はやたらと部屋に響いて俺の耳に届いた。 陳腐で、ありきたりな、何の根拠もない言葉だけれども、 正直、 今の俺には「救い」の言葉。 「望みを、叶えてあげましょう。」 そう言って、青年は窓から腰を下ろしたと思えば、ふわりと、俺のすぐ傍まで飛んで来た。 天使か、悪魔か。 「さあ、呑んで?」 口元に、差し出されたのは、赤と白のカプセル、3錠。いつの間に準備したのか、それは彼の手のひらで静かに佇んでいた。 彼は、俺の目の前で、綺麗に微笑んでいる。 こんな綺麗な笑い方をするやつが、 天使なワケがない。
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