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逃げて、逃げて、逃げて、逃げた。 どこでも良かった。 俺の事を知らない場所ならどこでも良かった。 田舎は、性に合わないと感じていたから、都会の下町で、交通の便が悪いところ。好んで誰もが来ようと思わないところを探した。 貯金はなかったけれど、現金を持っていた。 あの仕事で貰える給料は現金支給なのだ。一々振り込むのが面倒だったから、この中古のボストンバックを買って、この中に貯めていたのだ。 男の、しかも学生の一人暮らし。こんなところに盗みを働く奴なんて居ないだろうと思っての事。 辛い時の友は、煙草と、アルコールと、『彼』だった。 いつの間にか、バックのポケットに入っていた、あのカプセル。 駄目だと、分かっていても、止められなかった。 その度に、俺の中にいるユウノが怒っているのも分かった。 それですら、辛かった。 ユウノを忘れたいのか、そうでないのか自分でも分からない。 ムシャクシャする気持ちを、ぶっ飛ばすのは『彼』しか居なかったから、更に依存をする事になる。 駄目だと思いながら、 それでも、 貴方だけと、 甘く囁かれたならば、 嵌っていく。 いっそ、死ねればいいと思うけれど、俺は、死ぬのが怖かった。とても。 この世界に、どこかでユウノが居ると思ってしまうから、こんな俺の命ですら惜しい。 だらだらと、生きながらえて、求めるモノが分からなくなった時、俺の脳は、少しずつ、記憶を整理しだした。 これから、生き抜いていくのに必要な物、必要でない物。 日に日に、考える事が億劫になっていって、意識が朦朧とする事が多くなった。 ずっと、一つ所に定まらずにふらふらしていたから、一度、腰を据えようとたどり着いたのが、この場所だった。 その頃には、もう殆ど昔の事なんて忘れていた。 忘れている事すら、忘れていた。
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