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その後、仕事終わったら飲みに行こうと誘われた。特に断る理由もないので、俺はのこのこついていった。
自然にアドレスを交換する流れになって、会社との連絡の為にしか使っていなかった携帯に有池美貴の名前が加わる。
酒もあるからか、沢山、嬉しそうに喋るミキ。
大学を出てから、彼はピアノの調律師の勉強を始めたらしい。親と大喧嘩した末に、ごり押しで自分の夢の為に家を出た。でも、しばらくしたら親の方が折れてくれて、結局今は上手くいってるとか。
「ジュンはね、ヒロの働いてる楽器メーカーの正社員になったんだよ。」
「そうなの?」
「そう。営業だって言ってたから、ここに派遣されてくれば、一緒に仕事する日がくるかもね。」
実際、言ったミキの言葉通り、後にジュンは俺の居る店に派遣されて来た。その頃、俺もバイトと言う立場から契約社員という立場に変わっていた。
「この馬鹿!連絡もしないで!馬鹿!僕もミキも も、どれだけ心配したと思ってんの!馬鹿!」
ジュンとの出会い頭、立て続けに3回馬鹿と言われた。
ゴメン、と力なく謝れば、どンッ、と背骨が折れるんじゃないかという勢いで背中をどつかれた。
どうやら、それでチャラにしてくれたらしい。
その後、ジュンはしつこく何かを聞いてくる事は無かった。
店に、ジュン以外に歳の近い人が居なかったから、俺たちは自然と一緒に居ることが多くなる。
そうなれば、話題は大学の時の話が多くなる。まぁ、当然だよね。学部こそ違えど、俺たちは同級生で、サークルが一緒で、しかも仲が良かったと言うし…。
あまり、覚えていないけど。
ジュンが、あの時こうだった、ああだった、と話す度に、俺は、そうだったかな?そうだったかも?と、曖昧な相槌しか打てずにいた。
そんな俺を見て、ジュンも、どこかおかしいと気付いたらしい。段々と、大学時代の話は減っていく。
気を使わせている、と言うのを、ひしひしと感じていた。
このままじゃ、駄目だ。
漠然とそうは思っているけど、具体的な解決策が見つからないまま、俺と、ミキと、ジュンの、手探りの関係が暫く続いた。
しかし、ある日、ジュンが香水を変えた。
「あれ?ジュン、香水…。」
「あ、うん。変えたー。アレだよアレ。」
「アレ?」
「えーっと、何だっけ?ほら、 が昔使ってた、」
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