6/7
前へ
/68ページ
次へ
「人間ってのは、不思議なものですよね?」 コツン、と一歩、彼は俺に近寄った。 「頭で忘れていても、体か覚えていれば、ちょっとした切っ掛けで思い出す。」 嗅覚や味覚は、割とハッキリと覚えているらしいですね?と、彼は付け加えた。 「そこで、あなたは崩れ始める。」 そう。 「折角、綺麗に片付けていたのに、彼らの登場により、徐々に引き出しが開く羽目になるワケです。」 全く、その通りだ。 「ま、僕にとって、それは好都合。」 彼はそう言うと冷たい手を俺の顎にかけ、当然の様に唇を奪う。 そのまま、たっぷり3秒。 それから名残惜しいように離れる。 彼は、ついでの様に鼻の頭にもキスを落とすと、トン、と俺の肩を軽く押した。 また、ゆらり、と椅子が動き始める。 なんとも言えない浮遊感。 くらりと、眩暈がした。 「さあ、目を閉じて。」 彼がそう言った途端、瞼が急に重くなってきた。言われるがままに、俺は静かに目を閉じる。 「7つ数えるまで、目を開けないで?」 諭すように、小さい子に言い聞かせるように、彼は言った。 …いち…に…さん… ゆらん、と、体が後ろへ。 それから同じ速さで前へ。 「鍵は、見つかりましたか?」 ゆらん、ゆらん、同じテンポで、前へ、後ろへ。 …し…ご…ろく… 「鍵は、ほら、」 …なな
/68ページ

最初のコメントを投稿しよう!

167人が本棚に入れています
本棚に追加