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「人間ってのは、不思議なものですよね?」
コツン、と一歩、彼は俺に近寄った。
「頭で忘れていても、体か覚えていれば、ちょっとした切っ掛けで思い出す。」
嗅覚や味覚は、割とハッキリと覚えているらしいですね?と、彼は付け加えた。
「そこで、あなたは崩れ始める。」
そう。
「折角、綺麗に片付けていたのに、彼らの登場により、徐々に引き出しが開く羽目になるワケです。」
全く、その通りだ。
「ま、僕にとって、それは好都合。」
彼はそう言うと冷たい手を俺の顎にかけ、当然の様に唇を奪う。
そのまま、たっぷり3秒。
それから名残惜しいように離れる。
彼は、ついでの様に鼻の頭にもキスを落とすと、トン、と俺の肩を軽く押した。
また、ゆらり、と椅子が動き始める。
なんとも言えない浮遊感。
くらりと、眩暈がした。
「さあ、目を閉じて。」
彼がそう言った途端、瞼が急に重くなってきた。言われるがままに、俺は静かに目を閉じる。
「7つ数えるまで、目を開けないで?」
諭すように、小さい子に言い聞かせるように、彼は言った。
…いち…に…さん…
ゆらん、と、体が後ろへ。
それから同じ速さで前へ。
「鍵は、見つかりましたか?」
ゆらん、ゆらん、同じテンポで、前へ、後ろへ。
…し…ご…ろく…
「鍵は、ほら、」
…なな
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