崩れる足場

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「もうしばらくいじってなかったからね。こいつにも悲しい思いをさせたな」 亮はまるで壊れモノを扱うように優しく優しくその表面を撫でた。その手が羨ましくてピアノに嫉妬した。けれど美しい光を放つようなそれは琴音をも魅了して止まなかった。 「亮が弾くの?」 琴音はピアノに一歩づつ近寄りながら亮に聞いた。亮は鍵盤を見せて軽く弾いた。ぽーんと部屋に響く音は本当に美しくて柔らかかった。いつまでも余韻を残す空間に耳を澄ませた。 「最近はもう弾いてないけどね」 亮は椅子に浅く腰掛けて滑らかな指使いで鍵盤を叩いた。柔らかいメロディーが時間と共にゆっくりと流れる。懐かしい歌のメロディーに琴音は洋風の小さな椅子に腰掛けて詩を口ずさんだ。 随分と昔の曲だし、あまり有名な曲でもない。亮は一瞬目を大きくして琴音を見たが、いつしか目を瞑って歌う琴音にあわせるように鍵盤を叩いた。 時々音を外して焦る亮に琴音は小さく笑った。歌を止めることはなかった。 .
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