一章

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 リンゴーン  夏休みを目前に控えた日曜日、来客を告げるチャイムが、屋敷内に響き渡った。  俺は棚掃除の手を休め、モニターを見る。  宅配便の兄ちゃんだ。 「日付指定のお届け物です」  爽やかに笑う兄ちゃん。  が、どこか冷めた感じの笑顔。  これが世に言う営業スマイルか。  などとくだらない事を考えながら受け取りにサイン。 「あざっしたー」  スマイルを崩さないまま、小走りに車に飛び乗ると、軽く二回空吹かしをし、勢い良く走り去って行った。  受け取った荷物の伝票に目を走らせる。  宛先は俺。  依頼人は……親父!?  へ?  なんで?  あっ、日付指定か。  依頼日を見ると5年前。  どうやら天国に召される前に出したらしい。  で?  何で「今日」なんだ?  開けりゃ分かるか。  自室に戻り、箱を開けてみる。  中には一通の手紙と二個の腕時計。  腕時計はご丁寧に専用ケースに二つ並んで鎮座している。  手首に巻き付ける部分は留め金が無く、まさしく手にはめるタイプ。  肝心の時間を表示する液晶部分は、真っ黒だった。  電池切れ……か?
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