≪カウントダウンは既に終わっていた≫

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≪カウントダウンは既に終わっていた≫

  「昨日はケーブレットの役割を説明したが、覚えてるか?」  俺は教室の黒板の前で、そんな事を言った。  俺の前には八つまでのチビが十人。  ここははてしなく小さくて鄙びた村、ブルーノートに唯一ある学校の、最年少学級だ。  近くにほかの町なり村もない。  子供の人数も少ないから、学校に通わなくちゃいけない十七までのガキが、年齢別にみっつの教室に振り分けられているってわけだ。 「はーい。ドラゴンのかん視と討ばつだよ!」 「リーバウのばーか。昨日のことだぜ?」  このガキどもは……。 「リーバウ“先生”だろう?」  生意気なガキに、こめかみを引きつらせながらも訂正する。  年長者に対する態度じゃない。  言わせてもらうと、これは俺の教育じゃない。  こいつらの親自信が、俺に対してこんな態度を取るから、マネしてやがるんだ。子は親の鏡、なんて言葉が有ったような無かったような。  敬う態度がない、なんて文句を言えば、俺自身が正式に学校の教師じゃないからだ、なんて言われる。  実際に、文句言った後だったりする。  教師かそうじゃないかなんて、教師が足りてない村の親が言う台詞じゃねえよな。  しかも、教師含め、村の奴らはここから滅多に出ない。  周囲を見渡せば荒野、一番近い村まで車で一時間弱。  車も、運転免許持ちも少ない。 出る気、なくすわな。これじゃ。  まあ、そんな訳で。 「俺が一番、村以外の事を知ってるから、学校長先生が用務員の俺を特別に指名してくれたんだ。この授業の間だけでも俺を先生と呼ぶ。それが学校長先生との約束だろ?」  俺が受け持ってる授業。  これは、村から出る気がなけりゃ、一生必要がない地理や、町の様子だったり。  いわゆる、社会科の授業だ。  そんなのを俺が――用務員の俺がその授業を受け持ってるのかっていえば、ガキに説明した通り、外のことに一番詳しいからだ。  学校長先生との約束。そう言えば、ガキは口先だけで、ごめんなさいせんせー、とか言う。  先生はこいつらの親にも慕われてるから、当然の反応かもしれない。  
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