第一話

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「ブランド物が欲しくて。」 梓はそう答えた。 「ブランド物のために、毎日そんなに働く意味あるの?」 寛人はお決まりの台詞を言った。 それは予想がついていた事だった。 「そうですね、バカバカしいとは思います。でも、どうしても欲しいんです。」 梓は、自分の生い立ちなど話す気はまったくなかった。 もう、どうでもよかった。 極度の眠気は、寛人のおせっかいに付き合っていられるほど、甘くはなかった。 梓はだんだんイライラして、答えるのも適当になっていた。 「アズちゃん、ブランド物、何がほしいの?」 寛人の言葉に、梓は投げやりになっていた。 「100万円の時計です。」 ブランド物なんて、何も知らない梓は、そうやって答えた。 「わかった。俺がそれを買ってやるから、もうこんなに無理するなよ。」 寛人は本当に優しい人間なのかも知れない。 でも、梓はそんな中途半端な同情など欲しくはなかった。 「それで満足しろとでも?」 「え?」 「私が欲しいのは、もっともっともっともっと高いものなの! 1億円よ、1億円! それが出せないなら、私に関わらないで下さい!」 (私は、眠いの・・・) 唖然とする寛人を背に、梓は仕事場に戻って行く。 (もう・・・話しかけてこないで・・眠い・・・眠い・・・) 「いらっしゃいませ。今晩のおかずにいかがですか?」 梓の日常に、同情など要らない。 必要なのは、ただ、お金だけなのだ。
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