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「ブランド物が欲しくて。」
梓はそう答えた。
「ブランド物のために、毎日そんなに働く意味あるの?」
寛人はお決まりの台詞を言った。
それは予想がついていた事だった。
「そうですね、バカバカしいとは思います。でも、どうしても欲しいんです。」
梓は、自分の生い立ちなど話す気はまったくなかった。
もう、どうでもよかった。
極度の眠気は、寛人のおせっかいに付き合っていられるほど、甘くはなかった。
梓はだんだんイライラして、答えるのも適当になっていた。
「アズちゃん、ブランド物、何がほしいの?」
寛人の言葉に、梓は投げやりになっていた。
「100万円の時計です。」
ブランド物なんて、何も知らない梓は、そうやって答えた。
「わかった。俺がそれを買ってやるから、もうこんなに無理するなよ。」
寛人は本当に優しい人間なのかも知れない。
でも、梓はそんな中途半端な同情など欲しくはなかった。
「それで満足しろとでも?」
「え?」
「私が欲しいのは、もっともっともっともっと高いものなの!
1億円よ、1億円!
それが出せないなら、私に関わらないで下さい!」
(私は、眠いの・・・)
唖然とする寛人を背に、梓は仕事場に戻って行く。
(もう・・・話しかけてこないで・・眠い・・・眠い・・・)
「いらっしゃいませ。今晩のおかずにいかがですか?」
梓の日常に、同情など要らない。
必要なのは、ただ、お金だけなのだ。
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