第二話

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「アズちゃん、寛人さんから聞いたんだけど、昼間も働いているんだって?」 出勤するなり、楓が梓にそう訊ねた。 「はい・・・」 今日の梓は、なぜか少しイライラしていた。 きっと、寛人のせいだ。 「寛人さんは、ブランド物が欲しいってアズちゃんから聞いたって言ってたけど・・・ でも、私からすると、アズちゃん、ブランド物が欲しくて仕事しているようには見えなくて・・・」 楓はそう言うと、もう一度梓の顔を見た。 「ブランド物が欲しいんです。」 楓にそう告げると、楓はそれ以上は何も言ってこなかった。 オープンの時間がやって来て、いつも通り楓の横についた。 笑顔はいくらでも作れる。 会話もそれなりに出来る。 それでも、心は乾き続けた。 もう、こんな生活がいやだ。 それでも、その生活をやめる事など梓には出来ない。 「アズちゃん、指名です。」 そう言われ、梓は指名されたテーブルに向った。 寛人が梓に手を振った。 「寛人さん・・・」 もう絶対に指名される事などないと、梓は思っていた。 「また会ったね。」 寛人の笑顔は、本当に優しい人間の心を映し出していた。 それでも、 「寛人さん、もう指名はやめてください。」 梓は、そう言った。 「・・・」 「迷惑です。」 「俺が、余計な事を言うから?」 「そうです。私の生き方にケチをつけないでください。 そう云うのが、一番迷惑だし、私は嫌いなんです。」 そう言えば、寛人はもう来ないと思っていた。 寛人は金の束だ。 でも、なぜか梓は、寛人には関わりたくなかった。 自分が生きる道を、寛人が根こそぎ変えそうで怖かった。 「もう、何も言わない・・・だからアズちゃんに会いに来ていい?」 「は?」 あれだけきつく言ったのに、寛人はそう言った。
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