第二話

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仕事が終わって、帰ろうとすると、寛人が待っていた。 「送ってくよ。」 タクシー代が浮くのは間違いない。 でも、寛人と一緒に居る事が、梓は怖くて堪らなかった。 「いい・・・」 そう言って、歩き出そうとすると、寛人が強引に梓を車に乗せた。 運転手付きの車は、寛人が本当に裕福だという事を物語っていた。 「寛人さん!!」 出発しようとすると、楓がお店の中から出て来た。 「楓ちゃん、今日はごめんけど、アズちゃんを送っていくから。」 寛人がそう言うと、楓の顔が一瞬曇ったが、楓はすぐに笑顔を作った。 「そうですか、じゃまた今度。」 そう言うと、笑顔を作り手を振る。 「あの、私は一人で帰れますから。」 そう言って、降りようとしたが、寛人は男だ。 力ではやはり適わなかった。 車が出発すると、梓は寛人に言った。 「寛人さん、どうして、楓さんの気持ちわかってあげないの?」 人の事など気にしない梓だったが、楓の様子を見れば、寛人に心底惚れている事ぐらいわかった。 「楓ちゃんは、気の合う女性ってだけだよ。」 寛人がそう言うと、 「バカじゃないの?!楓さんは、寛人さんを男として好きなんでしょう。見てわからないの?」 普段なら、ほっておくが、楓には恩が沢山あった。 だから、楓の恋を邪魔する気は梓にはない。 「仮にそうだとしても、俺は・・・アズちゃんが気になって仕方がないんだ・・・」 そう言うと、寛人は梓を真っ直ぐに見つめた。 その瞳は、汚れがない。 でも、今は恋愛をしてはいけないのだ。 恋に落ちる事は、自分を甘やかす事なのだから。 母が一番だと思わなければ、梓はこれ以上頑張れないのだ。 その事を、自分が一番よく知っている。 梓は、寛人に惹かれそうな心をぐっと押さえた。
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