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病院を後にして、いつものように指定されたデパートへ向った。
販売するものには、レトルトのハンバーグだ。
ものすごくおいしいわけでもなく、値段が安いわけでもない。
そんな品物を頑張って売ることの意味は、何もない。
だが、この品物でご飯を食べている人がいる。
そして、またそれを売るために梓が雇われているのだ。
世の中は、そう思うと、すべてお金なのだ。
人間は、生きるために、お金を稼ぐ。
でも、それだけでは、人はとても悲しすぎる。
何かが足りない。
梓の中で、少しずつ、何かが変わりつつあった。
レトルトのハンバーグを湯銭して、一口サイズにカットした。
それを爪楊枝に刺して、いつものように販売を始める。
(お金・・・お金・・・)
そう言い聞かせながらも、寛人の笑顔が浮かんで来た。
好きになってはいけないと、呪文のように言い聞かせ、自分を縛りつける。
楓が心底惚れるほど、寛人は魅力的な男だ。
それでも、梓はその思いを、断ち切った。
母の姿を思い出した。
母を失うより辛い事は、この世でない。
その思いが、梓をまた元の梓に戻していくのだった。
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