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しばらくして目が覚めると、梓を心配そうに見ている寛人の姿があった。
「アズちゃん、大丈夫?」
寛人の優しい声が、梓の胸を苦しくする。
「大丈夫です・・・」
そう答えてみても、頭の中にはお金の心配もあった。
明日には払わなければいけない、母の入院費。
その金額の莫大さに、眩暈がするのだ。
「寛人さん、お金貸してください!」
梓の言葉に、寛人は頷いた。
「いくら貸せばいい?」
多分、寛人を好きになっている気がする。
それでも、好きな人からお金を借りる虚しい行為も、梓はするしかなかったのだ。
「2万です・・・今日仕事で貰うはずだった分です・・・」
「わかった。」
そう言うと、寛人は財布からお金を出した。
「それから、ここまで運んでくださってありがとうございました。」
梓は自分の部屋に、寛人が連れてきてくれた事が嬉しかった。
好きになってはいけなくても、でも、一度惹かれてしまうと、もう思いを止める事は出来ない。
普通の人ならば・・・
梓は、寛人に惹かれていながらも、その感情を止めていた。
「アズちゃん、大変なのはわかるけど、自分の体を壊したら意味がないよ・・・」
寛人の悲しそうな顔に、梓まで悲しい気持ちになってくる。
でも、世の中の不幸を全部背負う気持ちで生きてきた。
そうしなければ、がむしゃらになることなど出来なかったからだ。
ここで放棄したら、死ぬまで後悔する気がするからだ。
「私は、大丈夫です。」
梓はそう言うと、寛人に微笑んだ。
皮肉なまでに、梓は肝心な時に泣けない女になっていた。
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