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今日も寛人は、梓を指名した。
「こんばんわ、アズちゃん。」
そう言うと、梓に微笑みを掛ける寛人。
その瞳に、吸い込まれそうになる。
「寛人さん、私を指名するのは、やめてください・・・」
「・・・俺はお金を払って、この店に来てるんだ。誰を指名しようと、俺の勝手だろう?」
寛人の言葉はごもっともだった。
「アズちゃん、俺に何か出来る事はない?」
寛人の言葉に、何も答える事は出来なかった。
「どうして、私なんかがいいんですか?」
梓はそう聞き返した。
「それは・・・ごめん、どういっていいのかわからないけど、人を好きになるって、自分でもどうしてかわからないんじゃないかな。
俺は、初めてアズちゃんを見た時から、何か特別なものを感じていたから。」
寛人は、梓をしっかりと見つめた。
梓は寛人の優しい瞳に吸い込まれそうになる。
だから、目を逸らした。
「アズちゃんとは、お店以外で会っても、ほとんど話もろくに出来ないし、じっくり話すなら、ここが一番だろう?」
そう言うと、寛人は悲しく微笑んだ。
「私は、寛人さんの気持ちに答えてあげることは出来ないよ。
それでもいいの?」
梓の言葉に、寛人は首を振った。
「答えてもらえないとは思ってない。
答えて欲しいし、君をもっと知りたいから、ここに来たんだ。
俺はね、一方通行の恋って悲しくて嫌なんだ。
だからこそ、君を振り向かせたくて、今、後悔のないように、頑張りたいんだ。」
寛人の言葉は、梓の胸を深く突いた。
一方通行の恋・・・
それは、今、母へ向けられている梓の愛を物語っているようだ。
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