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出口のない迷路に迷い込んだような気持ちになった。
本当に愛が全てならば、なぜお金が必要なのだろう。
金の切れ目が縁の切れ目。
その言葉は、多少なりとも正しいと梓は思っている。
綺麗事を並べても、生活が出来なければ愛する事も出来ない。
それが社会というものなのだ。
そして、その社会で生きていくためには、ルールに従うしかない。
病院へ入院すれば、お金を払い、ご飯を食べればお金を払う。
大人になるということは、何もいいことばかりじゃない。
子供の頃に抱いた夢が、どんどん壊されていく。
お金・・・そんなものに魂を売らなければいけない自分。
「アズちゃん、どうしたの?」
つい、考え込んでしまった梓を見て、寛人が心配そうに覗き込んだ。
梓は邪念を払いのけた。
「何でもないです。ごめんなさい。」
寛人は梓にはもったいないぐらい、優しい男だ。
裕福な男は、お金にせこせこしていない分、心に余裕があるように感じる。
人は自分にないものを求めてしまうというが、それも納得できる気がした。
だけど・・・
寛人に恋をすることで、自分を見失い、駄目になる事が梓にはわかった。
出口のない迷路に、ゴールを見つけてはいけない。
ずっと、さ迷い続けなければいけないのだ。
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