第三話

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その日の帰りも、寛人は梓を家まで送ってくれた。 「寛人さん、お金、まだ返せなくて・・・ごめんなさい。」 「いいんだよ、気にしないで。いつでもいいから。 本当はあげたっていいと思ってるけど、アズちゃんはそれは拒否するだろう? だからさ。」 寛人の笑顔に、胸が苦しくなる。 この人を好きになれれば、母から解放されるのだろう。 でも、その選択をいつしか後悔する事になる。 それも全部わかっているのだ。 冷静になれと、自分に言い聞かせた。 「アズちゃん、休み作れないかな?」 寛人がデートの申し込みでもしてくるのかと、梓は思った。 「無理です・・・」 「そっか。アズちゃん疲れてるから、休み作れれば、ゆっくり休んで欲しかったのにな。」 寛人の言葉に、少し自惚れた自分が恥ずかしかった。 寛人は、梓の体を気遣ってくれたのだ。 「もし、休みが作れたら、ゆっくり休んで欲しい。」 もう一度、梓にそう言うと、寛人は微笑んだ。 「ありがとうございます・・・」 その笑顔を直視する事は出来なかった。 でも、梓に付き合っているせいか、寛人も寝不足なのだろう。 目に隈が出来ていた。 「寛人さんも、毎日キャバクラなんか通わないで、休んだ方がいいんじゃないですか? 目の下、隈が出来てますよ。」 「本当?あぁ、年には勝てないなぁ。」 寛人はそう言うと、子供のように笑った。 梓も、その笑顔につられるように、微笑んだ。 「着いたよ。」 そう言うと、寛人が車のドアを開けてくれた。 お姫様になった気分になる。 「ありがとうございます。」 「3時間後には、仕事だろう、少しでも寝ろよ。」 そう言うと、寛人は帰って行った。 お姫様は、現実に戻される。 梓はシャワーを浴びて、1時間仮眠すると、また仕度をして、仕事に向う。 愛だけでは、人は生きてはいけない。 愛を守るために、お金は必要不可欠なのだ。
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