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そして決まった時間に、タイムカードを押してお店を出た。
タイムリミットは曲げない主義。
それは、時は金なりという言葉通り、梓には時間はお金と同じだったからだ。
お店を出ると、道端に一円が落ちていた。
もう錆付いて、青苔がついているが、梓はそれを拾い、ティッシュに包んだ。
梓には、お金が必要だった。
彼女の母の入院費だ。
梓の母は、植物状態で、この数年は管だらけの生活を送っている。
それでも、愛する人に生きていて欲しいと、梓は願っている。
父が母を放棄しようとしたとき、梓はお金を自分でどうにかすると決めた。
父は、梓がお金を払う事で、母のことを承諾したのだ。
たかがお金、されどお金。
人の命は、所詮、お金に左右されるのだ。
梓の心は、母への愛と、お金への執着心だけだった。
決して、ブランド物が欲しいわけじゃない。
ただ、愛する母に、一日でも長く生きていて欲しいだけなのだ。
意識がなくても、生きていると思うだけで、梓は生きていける気がした。
梓は、昼間は「マネキン」をして、夜はキャバクラで働いている。
キャバクラだって、「マネキン」のようなものだ。
笑顔を作って、男を相手に媚を売る。
お金になるのなら、どんなことでもやってみせる。
それが、21歳の梓の人生論だった。
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