第一話

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そして決まった時間に、タイムカードを押してお店を出た。 タイムリミットは曲げない主義。 それは、時は金なりという言葉通り、梓には時間はお金と同じだったからだ。 お店を出ると、道端に一円が落ちていた。 もう錆付いて、青苔がついているが、梓はそれを拾い、ティッシュに包んだ。 梓には、お金が必要だった。 彼女の母の入院費だ。 梓の母は、植物状態で、この数年は管だらけの生活を送っている。 それでも、愛する人に生きていて欲しいと、梓は願っている。 父が母を放棄しようとしたとき、梓はお金を自分でどうにかすると決めた。 父は、梓がお金を払う事で、母のことを承諾したのだ。 たかがお金、されどお金。 人の命は、所詮、お金に左右されるのだ。 梓の心は、母への愛と、お金への執着心だけだった。 決して、ブランド物が欲しいわけじゃない。 ただ、愛する母に、一日でも長く生きていて欲しいだけなのだ。 意識がなくても、生きていると思うだけで、梓は生きていける気がした。 梓は、昼間は「マネキン」をして、夜はキャバクラで働いている。 キャバクラだって、「マネキン」のようなものだ。 笑顔を作って、男を相手に媚を売る。 お金になるのなら、どんなことでもやってみせる。 それが、21歳の梓の人生論だった。
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