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「寛人さん、かっこいいでしょう?」
仕事が終わると、誰とも話さずに速やかに帰る梓だが、今日は楓の恩もあったので、少しだけ話をした。
「はい、多分・・・」
「アズちゃんって、本当に男に興味ないよね。」
楓の言葉に、梓は頷いた。
「アズちゃん、何か悩み事でも抱えている?」
そう訊ねられることはしばしばあるが、梓は自分の悩みなど人に言ったところで、何も変わらない事を知っていた。
「何もないです。心配していただいて、ありがとうございます。」
あくまで、嫌味のないようにそう答えた。
「そっか。声掛けてごめんね。寛人さん、アズちゃんのこと気に入ったみたいだから、また指名するって。」
「そうですか。ありがとうございます。」
「ふふ。あまり嬉しそうじゃないみたいだけど。」
「いえ、すごく嬉しいです。」
梓はそう言うと、楓に挨拶をしてお店を出た。
母が生きていてくれるのなら、どんな事だってする。
梓の気持ちは、母が倒れた三年前から変わっていない。
梓の心は決して、乾いているわけじゃない。
水を与えてしまうと、そこから立ち直れないような気がして、梓は怖かった。
だから、人と触れ合う事も、深く関わる事も出来なかった。
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