第一話

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いつものように、病院へ向って、梓は真っ白で、細い体になってしまった母を見た。 でも、息はしている。 それでもいい。 それでもいいから、傍に居て欲しい。 梓は溢れそうな涙をグッと堪えた。 いつか目を覚ましてくれる。 そう信じて生きている。 もう目覚める事はないだろうと、医者は言った。 でも、医療は万全ではない。 もしかしたら、目を覚ます事だってあるかも知れない。 「お母さん・・・」 梓は、ずっと母を呼び続けた。 もう日課になっているのに、どうしても受け入れられない。 母を失う事など、梓には考えられなかった。 人の命は、お金では買えない。 それは正しい。 でも、こうして、お金で買える命もあるのだ。 母の延命治療は、すべてお金で維持されている。 梓の心はぽっかりといつも穴が空いている。 母の治療費のために、友達付き合いを一切やめた。 母の治療費のために、寝る間も惜しんで仕事をしている。 母の治療費のために、恋愛も捨てた。 全て捨てたのに、母はよくなる事はない。 どうして・・・ 梓の心はいつも、母を求めて嘆き苦しんでいる。
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