第一話

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病室を出て、しばらく歩き続けた。 道端に無造作に落とされた10円を見つけると、梓はそれを拾い上げ、ポケットに入れた。 太陽が照り付けているのに、心の中は闇のようだ。 こうして、がむしゃらにお金だけを追い求めているうちは、まだマシなのかもしれない。 もし、今、母が亡くなったら、梓は何のために生きているのかわからなくなる気がした。 とにかく、一円でも多くお金を稼がなければ・・・ もっといい個室で、母がリラックスした状態で過ごせるように、頑張らなければ・・・ 泣いている場合じゃないのだ。 病院は待ってはくれない。 お金を稼がなければ。 梓は、その足でデパートへ向った。 今日の「マネキン」をするデパートは、大手のデパートだ。 売る品物は、ウィンナーだ。 梓はデパートに入ると、指定の服とエプロンをして、手早く準備を済ませた。 何も楽しくない日常。 苦しいだけの日々。 でも、命は待ってはくれない。 お金をもっと、もっと、稼がなければいけない。 苦しくても、嘆いても、母を助けられるのは、梓だけなのだ。
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