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店頭に立って、ウィンナーを焼き始めた。
いつもと変わらない、マニュアル通りの接客をする。
この商品を必要以上に売ったからと言って、梓のお金になるわけじゃない。
「いらっしゃいませ。一口いかがですか?
お子様のお弁当や、時間のない日に最適ですよ。」
そう声を掛けていると、店長がやって来た。
「小島さん。」
「はい。」
「今から、社長と専務が見えるから、もうちょっと笑顔で頼むよ。」
「わかりました。」
たかが、1日雇われ「マネキン」の梓が、社長や専務に認められるわけもない。
だから、素直に答えたが、梓はいつもと変わらない接客をした。
「いらっしゃいませ。一口いかがですか?」
向こうの方から、背広を来た連中がやってくるのがわかった。
興味はない。
梓は、何の緊張感もなかった。
「いらっしゃいませ。一口いかがですか?」
背広の連中は、梓に見向きもしないで、通り過ぎて行く。
それはわかっていた。
だから、梓には関係なかったのだ。
だが、一人の男が梓の方を向いた。
それは、寛人だった。
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