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「殿下! 殿下!」
男の必死な声が、廊下に響き渡る。
既に足取りは覚束ないながらも、彼は目につく扉という扉を開けて回った。
「殿下、どちらにおられます!? わたくしです、殿下! お姿を!」
足元を見ていなかった彼は、廊下の角を曲がったところで何かに躓き、満身創痍の体で踏ん張れるはずもなく、そのまま転倒した。
血に濡れた手から、頼りのソードが飛んでいく。
「く……ッ、殿下……」
それでも執念だけで床に両手をついて、どうにか上体を持ち上げる。
顔を伏せて固く目を閉じ呻吟しているだけでも、ひどい眩暈が身体の芯を掻き回しているのが分かる。
無理にそれを抑えつけ、壁に縋って立ち上がり、何に躓いたのかを確認すると、男は哀しげに眉を曇らせた。
血溜まりに伏す若い娘の、ぽっかり開かれた虚ろな目に、もう生気はない。
触れて確かめなずとも、絶命していることは明らかだ。
どうすればいい?
出血と疲労で、既に回転の鈍くなっている頭で、男は考える。
男には、守るべき人がいる。
この血臭と煙の臭いの立ちこめる惨状の中を、逃げ惑っているのであろう、2人の王女だ。
「殿下……」
──油断は、していなかった。
事実、今日までこのフィーリンテ星は、「難攻不落」とまで呼ばれて、忌々しいナヴレウス星との戦も、拮抗の状態にあったのだ。
だが今日になって、ナヴレウス星の勢力は飛躍的に跳ね上がった。
僅か一撃のイオン砲によって城は崩れ、なだれ込んできたサイオニックにより、人々は残虐に殺されていった。
星王夫妻も犠牲になり、ナヴレウス星王レプンツェルの狙いは、これで双子の王女に絞られた。
だからこそ男は、レプンツェルより先に王女を見付けだし、例え己が命と引き換えてでも、王女をお守りせねばならないのだ。
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