マンホールと少女

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「おやおや、藪から棒になんだい?」 驚いた様子など微塵も見せず微笑む仁先生。 「いや、だってモテるのに」 「モテるかなんて関係ないよ。波長の合う女性に出逢わなければ意味がないさ」 「ふーん」 それから暫く沈黙が続く。 居心地の悪さを感じ始めた頃、仁先生が口を開いた。 「あ、そうだ」 「はい?」 「最近なんだけど近所で子どもが行方不明になる事件が多発してるから気をつけてね」 「…子ども?」 「そ。遊びに行ったっきり帰って来ないんだってさ。子どもが」 先ほど見た血だらけの男の子を思い出す。 「まさか、ね…」 否定しながらも激しく波打つ鼓動は止まらない。 「瑠璃ちゃん?」 ハッと瑠璃は顔を上げると心配そうに顔を覗き込む瞳とぱっちり合った。 瑠璃は取り繕うように笑顔を貼り付ける。 いらない詮索をされると説明に困る。 「物騒ですね。私も気をつけないと」 「……」 心なしか仁先生の纏う空気が冷たくなった気がした。 (なんだろ。…警戒?) 殺気とは違う。 ただ、何かピリピリしているような気がする。 しかしそれは授業の終わりのチャイムとともに消え失せた。 「あ、授業の終わりだね。瑠璃ちゃんもう大丈夫?」 「あっはい!大丈夫です。」 慌てて瑠璃は立ち上がり体温計を渡した。 「熱もないし顔色もよくなったし大丈夫そうだね」 満足げに仁先生はにこやかに笑い頷く。 「お世話になりました」 「はいはい~。頑張ってきな」 瑠璃は保健室を後にした。 …
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