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穏やかな風が頬を撫でる。
目の前には大きな川が流れていて敷き詰められた芝生が心地いい。
あれから一年位、長いようで短い月日だった。
それでも目まぐるしく進む世界に一人取り残されそうになったけど、必ず君が帰って来てくれると信じているから生きようともがく。
確信なんてない。
願いに近いかもしれない。
・・
だけど帰ってくる場所はここだと信じているから。
さわりと風がやんだ。
あぁ…、懐かしい気配が隣から感じる。
だけど隣は見ずに話した。
「ようやく…会えたね」
「あぁ、長かった」
「待っててくれたんだね。ありがとう」
「いいって。そんなん俺のかってやったし、気にせんでいいよ」
「…うん」
そこで会話はやんだ。
ただ2人で黙って空を見上げた。
あぁ…後少しだ。
隣に座る彼女を初めて見て名前を呼ぶ。
「ん?」
久しぶりに見た彼女の顔は穏やかで涙が出そうになる。
我慢しろ、これが最後なんだ。
「…お帰り」
不細工な顔だったのかもしれない。
彼女は目を見開いて驚いていたが、やかで円満の笑顔で笑った。
「ただいま」
やんでいた風がフワリと吹いた。
もう隣に彼女の気配はない。
だけど確かに感じる。
身体の中に宿る彼女の気配を。
胸に手を当てて青い空を仰ぐ。
目尻に溜まった雫が頬を滑り落ちた。
「お帰り…」
君と見上げた空は美しかった。
…
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