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アラームの騒がしい音が耳元に響く。
ベットに指をさ迷わせて冷たい個体を掴んみ、うっすらと目を開けた。
アラームを止めてからしばらく、ぼーっと天井を眺める。
(…起きなきゃ)
学校があるのだ。
身支度を整えてリビングに出るといつものようにテーブルには冷めた朝食が置かれていて、母の気配はない。
母は婦人刑事で毎朝出かけるのが早く、顔を合わせるのは決まって夜遅くだ。
父が亡くなってからというもの母は何かに取り付かれたように朝から晩まで働いた。
母子家庭という特殊な環境で家計が厳しいからということもあったがたぶんそれが問題ではないと思う。
きっと母は寂しかったのだ。
失った欠片を忘れたくて仕事に打ち込んで今に至る。
もう何年も前のことだというのに今もせわしなく働いている母を見ているとまだ傷は癒えていないのだろう。
「……」
お仏壇に飾られた父の写真を見やる。
正直なところ父のことは何も覚えていない。
昔はもっと漠然した何かを感じていたけど今では写真を見ても他人にしか思えないのがなんだか時々もどかしくなってしまう。
(今度アルバムでも見ようかな)
そんなことを思いながら味気のない朝食を食べ終えて外に出た。
…
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