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廃工場が立ち並ぶ一角。
元はおもちゃの製造工場だった建物から黒の方が強い灰色の煙が立ち上っていた。
煙の量は騒ぎ立てる程ではないが見過ごす事のできる量でもない。
この辺りは街から隔絶されていて危険地区に指定されている。
学校では建物が脆くなっていて危険だからと厳重に注意をしている場所だ。
それに無駄に大きな建物が密集しているので昼間だというのに太陽が当らず少し寒い。
こんな場所に好き好んで来るのは余程の変わり者か彼くらいのものだろう。
地面に倒れた危険立入禁止の立て看板をあえて踏みつけて村上大地は煙の発生源だろう工場の中に入る。
中に入った瞬間むわっとした熱気と物が燃える時特有の匂いに出迎えられた。
向かい風にのって流れてくる煙に目が染みる。
工場内は煙が薄く充満していて視界が悪い。
「お~い。奈菜子、いる~?」
反応なし。
奥にいるだろう人物にかけた声はむなしく木霊しただけだった。
こうやって声をかけても返ってこないのは経験上分かりきっていた。
それでも声をかけてしまうのは習慣というやつだ。
仕方ないので壁を頼りに進む。
そしてやっと視界がひらけると、
「やっぱ今日もいたか。毎日毎日御苦労な事だよ」
中にいた少女(余程の変わり者)、新里奈菜子に声をかけた。
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