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「なおくん」 ボクの後ろから声が聞こえる。 振り向くと、服の裾をつかんで満面の笑みを浮かべる女の子がいた。 「なーおくん♪」 何が楽しいのか、ボクの名前を何度も呼んではニコニコしている。 でも、ボクも何故か呼ばれて嬉しくなる。 頬が緩くなってしまう。 それがバレないようにボクは目を鋭く細め、そっけない態度で歩く速度を上げる。 ぐんぐん歩く。 腕もいつしか大振りになり、空を睨むように顔を上げて歩く。 「なおくん♪なおくん♪」 また彼女が呼ぶ声がする。 服の裾を離さず一生懸命追いついてくる。 握りしめられた服から伝わる彼女の思いに少しだけ歩く歩幅を小さくしてしまう。 「えへへ♪」 彼女はそれに気づいて、こちらを覗きこむように笑いかけてくる。 ボクはまた彼女の笑顔から逃げるように歩く速度を上げる。 でも、後ろが気になってどうしても振り切れない。 「なおくん♪」 振り向かなくてもどんな表情をしているのか想像出来てしまう。 ボクはいつも彼女の笑顔から逃げてばかりだ。 そして、これからも逃げれないだろうな。 そう考えて また頬が緩むのを感じてしまう。 ボクはこの小さな手のひらとずっと一緒に歩いていく未来を思い描いていた。 あの頃は それが当たり前だった…。
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