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いつの頃からか、俺は強い奴に殺されることを夢に見るようになった。
俺のこの刀が撥ね飛ばされる位、俺をねじ伏せることのできる力量の人物に。
それは些細な出来事。いつものように、宛もなく流浪していた夕方のことだった。
「なぁ、お前…ちょいと面貸してくんねぇか?」
すれ違い様に、そう問われた。その言葉に一瞬身動ぎ、徐に刀に手をかける。
面を貸せと言われるとろくなことがない。
しかし相手は、そんな俺の行動に焦ったらしい、声を裏返しながら俺をいさめる。
「おぅわ!違う違う!俺は決闘の申し込みに来た訳じゃない!この辺に現れる、腕っぷしが強いって評判の奴に会いに来たんだ!」
俺は刀から手を外し、向き直る。どこぞの将軍様かは知らないが、そのお召し物はこざっぱりしている。
「見たところによると、お前がその"奴"なんだな?」
「さぁ?問われても分からないが」
「いや、絶対にそうだ。お前を探していたんだ」
「俺、を?」
初対面の、得体の知れないこの人物から恨みを買った覚えはない。刺客であるなら…なきにしもあらずといったところだが。しかし纏う雰囲気から、ただ者ではないことぐらいは明らかだった。
おちゃらけていながら、醸し出す雰囲気は張り詰めていて。
何者なんだ、こいつは。
「お前、俺のところ来ないか?」
……。
「はぁ!?」
これこそが、俺が新選組に入ることになる結果の、発端だった。
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