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闇夜に輝く白い月に照らされた背中合わせの2人を、取り囲む無数の影。
片や肩で息をし、片や涼しげな顔で銀に煌めく刃を構えている。
「おや、もう疲れたのですか?これからが本番なのに」
「…るせぇ」
「口だけは達者ですねぇ。ま、その傷ではぶっ倒れても仕方がないですが」
肩で息をしている男は、腹からゆるゆると鮮血を流していた。
「意識、飛ばさないでくださいね。僕一人でこの人数を蹴散らすのは骨がいりますし。あなたの介抱もしなければならないので疲れたくはないんです」
「はっ…ほざくな。俺はまだ殺れるッ」
半ば飽きれ顔で、ため息をつく。
「あなた、もっとおしとやかになりなさい。"守ってくれますか?"みたいなこと言えないんですか?」
「む、りだ」
「でしょうね」
さも可笑しそうに笑う。
取り巻きが、声を張り上げた。
「ごちゃごちゃ言ってんじゃねぇ!!死ね沖田ぁぁあ!!」
これを皮切りに、事態が動いた。
「美しくないね」
カチャリ、と刃を返す。
「死ぬ、なよ」
「僕を誰だと思っているんですか?」
「…一番隊隊長、沖田総司」
沖田と呼ばれた男は、ニタリと微笑んだ。
瞳に月夜が差し込んで、鈍く光る。
「ご名答」
「ぐぁああ!」
踏み込んできた男を斬り伏せる。
「ごめんなさい、痛いでしょう?でも生憎僕は、優しくなんて出来ないのですよ。時間も、僕にもこいつにもありませんし」
飛び掛かってくる人間を、阿修羅の如く的確に死に至らしめた。
飛び散る赤い液体は、花弁のよう。
月夜に照らされ、美しく。
「僕を闇討ちした上こいつを汚した罪、きっちり受けていただこう」
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