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一足先にソファーに座り込んだロゼを視線で見送ってから、キアはジョナサンに問う。
「どうだった?」
「んぁー、いつも通り。うちの圧勝」
「そっちじゃない。シアンの事だ」
キアが言うのは、一ヶ月前に奪われたドラゴンの事だ。
憐れにも飾り立てられた飛竜を思い出して、ジョナサンは溜息を吐く。
「生きてるよ。キアが乗ってた時より戦果は無ェけど」
「ドラゴンとの相性が悪過ぎるんですよ。乗り手が自分勝手過ぎるせいで、シアンは実力の半分も出せていない」
ドアのスライドする音がして、茶髪の青年が滑り込む。
緩くウェーブの掛かった髪に上品な顔立ちと物腰が、育ちの良さを感じさせる。
「やぁキア。御馳走になりに来たよ」
「ジオを連れてさっさと帰ってくれたら作ってやる」
「………それって遠回しに食うなっつー意味?」
「他にどう聞こえたんだ?」
ニッコリ笑って、キアはジョナサンを軽くあしらった。
「ヨハンも何とか言ってくれよ~」
「そういえばジオ、メイジの背中に鞍擦れの跡が有りましたよ」
「ゲ、マジか…………直ぐにダンカンのオッサンに顔出さなきゃじゃね~か……」
ダンカンというのは、三人には顔なじみの竜具工だ。
キアが『親父殿』と呼ぶのも彼の事で、腕の良さと人柄の良さは軍所属の竜具工よりも信頼が置ける。
「………はぁあ、豚肉と野菜有るし………鍋かな」
「結局作ってくれるんですから、キアも人が良いですよね~。ダンカンさんに似たのかな?」
「じゃあ基本的な性格はマージに似た訳だ」
「オイ、丸聞こえだぞコラ。第一親子じゃねぇ!!」
「そんなん知ってるさ~」
ヒラヒラと、ジョナサンは片手を振ってキッチンに立つキアを見送った。
次の瞬間、ジョナサンの後頭部でリンゴが爆ぜる。
「のわぁ!?」
「ピアッ♪」
当然投げたのはキアで、欠けたリンゴをロゼが拾ってかじり始めた。
「うぉっと、オチビチビはリンゴが好きなのか?」
「ピァ?」
「ジオ、幼児を誘拐する不審者みたいな事を言わないで下さい。そして頭を洗ってきなさい」
「へ~い」
ガシガシと頭を掻きながらシャワールームの扉を開けたジョナサンに、今度はナイフが飛んでくる。
その刃を指先で挟んで受け止めると、ジョナサンはキアに投げ返した。
しかしジョナサンがしたように、器用に後ろを向いたまま指先で受け止めた。
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