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ナイフが室内を飛び回る様を見慣れた光景として、ヨハンは額を押さえた。
「二人して………いつまでも子供なんですから」
「ピィ?」
首を傾げたロゼに、ヨハンは言い聞かせるように言う。
「キアの新しい飛竜くん。あんな大人になったら駄目だよ、僕の気持ちを考えて下さ―――キア、鍋焦げる!!」
火を付けたまま放置されていた鍋が白い煙を昇らせ始め、ヨハンの慌てた声にキアが漸く我に返る。
「ぁっぶね~………」
「二人で馬鹿やってるからです!!ご飯は無事ですか?」
「そっちの心配すんのか……」
「当たり前でしょう」
アッサリ切り返されて、ジョナサンが肩をガックリ落としながらシャワールームに消えた。
キアは何事も無かったかのように、火を弱めてのんびり鍋を掻き回す。
「ロゼ」
「ピアッ?」
ポイッと投げられたリンゴを、ロゼが小さな翼手でキャッチした。
直ぐにシャリシャリと小気味の良い音がする。
「ところであの子は?フェザーレアには見えませんが………」
「あぁ、雑種」
「あぁ…雑種………雑種!?」
普通に言われてつい普通に流しそうになってしまい、ヨハンは慌てて聞き返した。
嘘なら良いのにと思うヨハンの心中を、目の前の幼なじみは容易に裏切る。
「竜研から。フェザーとヴォルケーノの雑種」
「………君は厄介事を押し付けられるのが多過ぎやしないかい?」
「別に。今更だろ?」
「しかも雑種に竜研絡みだなんて………」
はぁ、とヨハンは白い天井を仰いだ。
「君は何処まで自分の株を落とす気なんだい?全く………」
「それも今更」
「ただでさえ君は目の上のタンコブ扱いされているのに」
「だから今更…………ん…」
幼なじみの心配を切って捨て、キアは小皿をヨハンに渡す。
味見をしろと言いたいらしい。
コンソメの良い匂いがして、鍋を見遣れば美味しそうなポトフが湯気を上げている。
舌が肥え過ぎてしまっている自覚のあるヨハンだが、薄味ながらもしっかりと味の染みた野菜が食欲をそそる。
「匂いだけでお腹一杯になれそう……」
「そりゃどーも」
火を止め、鍋をテーブルに運ぶ。
当たり前のようにヨハンが鍋敷きを敷いて、置いた鍋に蓋をした。
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