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竜を武装をさせる上で、鞍は最も重要になる。
装甲は総てが鞍に連なるし、乗り手の武器も殆どは鞍の帯に納められる。
ヨハンに鞍擦れが有ると言われたからだろう。
メイジの背には有袋竜の物と思しき鞣革が、鞍の代わりに掛けられているだけだった。
メイジはビッグホーンの雌竜だ。
暗褐色の鱗に後頭部から前面へ伸びる巨大な角はゴツい印象を与えるが、性格は穏和で癖が少なく、乗りやすい点に定評がある。
物珍しさに近付いたロゼを、前脚でコロコロと転がしていた。
そうかと思えば厩舎の大戸が開いて、ヨハンが訓練用の武装をさせたグレイファルコを牽いてくる。
ヨハンは滅多にドラゴンに乗る事は無いが、腕は良い。
竜医をしているのが勿体ないと、師団長にも声を掛けられていた。
「装甲は要らなかったンじゃないか?相手はジオだぞ」
「別に僕が乗る訳じゃないですから」
ジョナサンへ自分は関係ないとばかりに切り返し、キアに手綱を渡す。
「何丁載せた?」
「ペイント弾を詰めたマスケットが左右共五丁ずつ。所詮ロゼに見せるだけなんでしょう?」
「OK、そんだけで充分」
鐙に足を乗せると、一気に背の鞍に跨がる。
労るように首を軽く叩くと、肩に提げたマスケットを鞭の代わりに腹を叩いた。
応えた飛竜が空に上がる。
ヨハンからキアの物と同じマスケットを十丁受け取ったジョナサンも、メイジへ上がるように指示した。
「今から君の乗り手がどれだけ凄いか見られるよ」
「ピアッ?」
よく解らないのか、ロゼが首を傾げる。
片目をつむってウインクすると、ヨハンは空を見上げた。
「君は、キアと出逢えて幸運なんだよ」
言って、笛を口にくわえる。
犬笛に似たそれから、甲高い音が鳴った。
‡‡‡‡‡‡
―――ピィィィィィィィィイ!!
ヨハンの笛の音は、風の強い上空でもよく聞こえた。
互いにマスケットを構え、ドラゴンに合図した。
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