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戦利品の缶紅茶を片手に、キアがロゼの鼻先を撫でた。
その反対側でメイジに寄り掛かり、ムスッとした顔でジョナサンが缶珈琲を傾ける。
「くそー………ファルコ相手なら勝てる自信有ったのに」
「キアのエアリアルスライドを忘れてたジオが悪いですね」
同情の予知無しとばかりに切って捨てたヨハンが、買ってきたコーラの栓を開ける。
途端に噴き出した缶に顔をしかめ、芝の上に置いた。
「忘れてた訳じゃねェ………たかが遊びでそこまでやるとは思わなかったンだよ」
「………"たかが遊び"であんなに嫌らしい飛び方した奴の言う事か」
「だってェ、たまには勝ちたかったンだい」
わざとらしく頬を膨らませ、ジョナサンは口を尖らせる。
「グゥゥゥ………」
「…………メイジが悪い訳じゃねェよぅ」
申し訳なさそうにメイジが喉を鳴らして、ジョナサンが首を横に振った。
「ピィ」
「グァッ?」
ロゼがかじっていたリンゴをメイジに差し出す。
しかし、肉食のビッグホーンはリンゴを食べない。
首を振って、鼻先でリンゴを押し返した。
「ピィ!!」
何を勘違いしたのか、ロゼは翼爪を立ててメイジに飛び掛かる。
しかし成竜と幼竜では力の差があって当たり前で、軽々と前脚で転がされた。
その様子は、母犬が仔犬と遊んでいる姿を彷彿とさせる。
「まだ二週間の箱入り竜だからな、しばらく遊んでやってくれ」
今朝になって送られてきたロゼの引継書類の内容を思い出してキアが言えば、ジョナサンは更に口を尖らせた。
「竜研も何考えてンのかねェ…………アルビオンは雑種はご法度のハズだろ」
「ですからキアに回ってくるんでしょう。いくら徴兵制度で軍入りしているとはいえ、民間上がりで即座にドラゴンに乗れる人材は非常に珍しいですからね」
ヨハンに皮肉られて、キアは肩を竦める。
「俺はガキの頃から乗り回してるんだ。お前らも知ってるだろ」
「………それが出来る環境自体が先ずレアだと思うンだけどな……」
ジョナサンが軽く唸った。
騎乗用のドラゴンは愛玩用や労役用のドラゴンに比べて遥かに高価だ。
アルビオンの生活水準が他国より高いとはいえ、民間がホイホイ手に入れる事は難しい。
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