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メイジの腹に寄り掛かってロゼが丸くなるのを見遣って、キアは額を押さえる。
「俺がいくら『ビッグホーンはデカくなるんだぞっ』っつっても聞かなかったよな………」
「そういえば、『オレん家の庭は広いから平気だっ!!』って言ってましたね」
「あぁ………そりゃ大地主の庭は広いだろうよ………」
「キアの家だって普通より充分広いでしょうに」
「………お前ん家が1番広いから安心しろ」
ガックリと肩を落として、キアはマスケットの火口から火繩を抜いた。
踏み潰して鎮火させると、芝が少し焼け焦げる。
その臭いが気になったのか、メイジが鼻を鳴らした。
「…………ヨハン、火ぃ有る?」
ひしゃげた煙草の箱の底を叩くと、一本が飛び出す。
それを口にくわえた所で思い出したのか、煙草を口の端に移動させてから聞く。
キアの手の中では、ガス欠になったジッポが虚しく空回りする。
「………有る訳無いでしょう」
「だよなー、ちくしょ。ジオのせいだ」
昨夜知ったようにキアの煙草を吸っていたジョナサンが、自分のライターを使わずにジッポを使っていた事を思い出す。
十八で成人と見做されるアルビオンで、キアと同年代が酒を飲むのも煙草を吸うのもさほど珍しい光景では無い。
キアにはキアのこだわりが有ってジッポを使うのだが、ジョナサンにはそれが伝わらない。
一昨日オイルを補充したばかりで、キアがジッポを使った時といえば、今日火繩を点火しただけだ。
原因がジョナサンに有るのは目に見えていた。
「あの喫煙狂め。そのうち肺ガンになって死ね」
「死"ぬ"じゃなくて死"ね"ですか………まぁ、あの喫煙量では、死因は戦死より病死の方が遥かに確率高そうですけど」
キアの口から未点火の煙草を取り上げて踏みにじったヨハンは、肩を竦めて首を横に振った。
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