雑種の竜

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完全にボロボロになった煙草の残骸を前に、キアが嘆く。 「おまっ、何て事しやがる…」 「一月禁煙出来たんですから、これを期に止めれば良いじゃないですか」 「………潰してから言うな…あっ!?」 鮮やかな手際で煙草の箱を奪い取ったヨハンが、メイジの前にそれを投げた。 何かと思ったメイジが、猫パンチならぬ竜パンチでそれを踏み潰してしまう。 「…………何て事を」 大型ドラゴンのウェイトでペラペラに薄くなった煙草の箱は、厚さが1センチも無い。 元々ひしゃげていたとはいえ、ほぼ満タンに入っていた煙草の末路など容易に想像がつく。 「確か部屋にも有りましたよねぇ、カートンで」 ニコニコと笑うヨハンの顔は至極愉しそうだが、喫煙者であるキアはそれどころではない。 ドラゴンが居なくなると煙草が吸えなくなる癖があるキアにとって、一ヶ月振りの煙草だったのだ。 自分にとって迷惑な性癖の所以でニコチン不足の身体が、潰された煙草を認識して悲鳴を上げる。 値上がっている訳でもないのに、好き好んで禁煙などしない。 飲酒をあまりしないキアにとって、煙草は数少ない娯楽だ。 「……ジオより吸ってない」 「一日二本吸っていれば充分です」 ジョナサンに『ドラゴン依存喫煙症』と称されている性癖の所以で元々喫煙量は少ない方だが、目の前でこうも遣られてしまうと流石に凹む。 朝晩一本ずつ吸うのが日課なのだが、ニコチン中毒のジョナサンよりは余程健康的だとキアは思っている。 そして、昨夜と今朝は二人の食事係をさせられていた所以で吸っていない。 「お前、俺が朝晩吸うって知ってるよな」 「えぇ」 「お前らが泊まった所以で吸ってないの、知ってるよな」 「えぇ」 ―――確信犯ですか、そうですか それ以上は聞かずとも確信を得て、内心で呻いた。 決まった時間にしか吸わないから完全なサイクルになっており、朝はともかく夜は一定時間を過ぎると喫煙欲が失せる。 ロゼが鼻提灯を膨らませながら寝ているのを平和だと思いつつ、部屋に在る煙草を隠さねばと考える。 しかし必要最低限の物しか無いキアの部屋に、カートンを隠せそうな場所は無かった。 一瞬冷蔵庫の裏という考えが過ぎったが、吸う度に戸棚の下にある冷蔵庫を動かすのも手間だし、それではただの不審者である。
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