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その上、ロゼは雑種のドラゴンだ。
アルビオンは雑種を忌避する国民性という事もあり、技術は低いくせにプライドだけは無駄に高い軍の竜具工が相手をしてくれるとは到底思えなかった。
この三ヶ月、散々ロゼの事で陰口を叩かれているのもある。
キアは陰口などドラゴンさえ居れば幾らでも堪えられるし気にもしないが、自分はともかくロゼの事で陰口を叩かれるのはうんざりだった。
ヴォルケーノ譲りの短気さを除けば騎乗用のドラゴンとしては申し分の無い性質を備えているのに、血統の事でとやかく言うのは筋違いだとキアは思う。
羽毛竜は騎乗に向かないというのもあるのだろうが。
とにかく、いずれは見返してやろうという気持ちはあった。
その為には、何よりも先ず良い竜具が必要だ。
純血のドラゴンなら既製品を個体ごとに合った細かい調整をしてもらえば良いだけの話だが、羽毛竜である上に雑種のロゼは一からオーダーする必要がある。
乗り手として色々口出しもしたい事もあり、こういう所はやはり信頼の置ける所で面倒を見てもらいたい。
親子三代飛竜乗りという事もあってそれなりに経験は蓄積されているし、これから行くダンカンという竜具工は父の代から世話になっている。
キアの無茶苦茶で我儘に近い注文を理解して実行してくれるのも彼ぐらいだろう。
厳ついくせに情には厚い髭面を思い出して、キアは苦笑いした。
「親父殿ん所までもう少しだかんな?我慢しろよ」
労るように首を叩くと、ロゼは鼻を鳴らして応じる。
腕の割には名の知られていない竜具工の工房の吊り看板が目に映り、足早に近付く。
金型を整形でもしているのだろうか、ハンマーの良い音がした。
「親父殿!!」
「喧しいわい!!そろそろ来るとは思っとったがな」
カンカンと煩いハンマーの音に掻き消されそうながら、威勢の良いしゃがれ声が帰ってくる。
その向こうでマージが客引きをしていたが、キアとロゼは見なかった事にした。
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