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寂れた工房の外観とは反対に、ツルリと禿げ上がった(本人には口が裂けても言えないが)スキンヘッドは雲の切れ間から覗いた陽光を反射してキラキラと輝いている。
天職はボディービルダーとまでジョナサンに言われてしまう程筋肉質だが、マージのような熱苦しさもウザさも無い。
絵に描いたようなムキムキっぷりは、正直な所キアには羨ましい。
あれくらいムキムキになりたいのだが、悲しいかな、キアは見た目で判る筋肉が付きにくい体質だった。
バランスの良い付き方だと言われてしまえばそれまでだが、キアも男である。
筋肉ムキムキの体にはどうしても憧れる。
鞍の金型を整形中だったらしいダンカンは、手を休めてキアの斜め後ろに控えるロゼを眺めた。
「マージにゃ聞いてたが、お前が本気で雑種に乗るたァな。しっかし、良いドラゴンだ」
「…………やっぱ判る奴には解るんだよな……」
肩を落とし、キアは引き手の端を係留用のポールに結ぶ。
緩まない事を確認すると、ロゼの肩を叩いてから工房の中に入って行った。
「用意は出来とるぞ」
遅れて入って来たダンカンは、奥に積まれた鞣革の山から一番上の革を取り上げてキアに差し出す。
薄いがしなやかな革は、キアが望んだ通りの触り心地だ。
「さっすが親父殿!ジャイアントワラビーの革だろ?」
「…………触っただけで種類が判るお前さんの酔狂さには毎度ながら呆れるわ………頭絡(とうらく)にはやっぱ裏当てが居るか?」
手綱や、はみ等の頭に着けてドラゴンを操る道具一式を頭絡と言う。
無口にははみが無く、手綱も引き手を後付けする形になる。
はみが無い分ドラゴンを操るのは頭絡よりも難しく、主な使い道は乗らずに連れ回す時や一時的に係留する時、複数人で動かす時に限られる。
ジョナサンでさえ、遊びで乗る時は無口だが戦場では頭絡を付ける。
鞍と同じ様に、やはり個体毎に合った物が欲しいのは乗り手としては当たり前だ。
「欲しい。でもはみは要らない」
「言うと思ったわい」
ほれ、と大型竜用の頭絡を渡される。
オーダーメイドでしか造られない、はみ無しの特製だ。
「それ、メイジのだろ。そこまでデカくねぇし」
「それくらい判っとる!!後で大きさ測らにゃならんな」
ブツブツ言いながらも、ダンカンは手際良く道具を用意していく。
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