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巻き尺と鞣革を持ったダンカンに紙とペンを押し付けられた所で、ロゼが外から激しく吠える声がした。
ただ事ではないその嘶きに慌てて二人が外に飛び出せば、堅気には見えない男が四人、ロゼを抑え込もうと縄を掛けている!!
「ロゼ、遠慮すんな!やれ!!」
キアの指示にロゼが顔を上げ、男達が狼狽えた所で一人が吹っ飛んだ。
ロゼが地面に埋められたポールを引き抜き、自分を黙らせる為に嘴を押さえようとした男にぶつけたのだ。
やられた相手は口から血の泡を吹いていたが、気絶しただけで幸いにも死んではいないようだった。
ドラゴンの持ち主らしい軍人が現れた事で動揺した男の一人に、懐に潜り込んだキアが顎に向けて掌底を打ち込む。
ダンカンはキアが狙わなかった男の片方の背後に回り込み、その後頭部に向けて拳を振り下ろした。
三十秒も持たずに三人が沈み、明らかに怯えを見せた生き残りが後退る。
先程から延々と機嫌の悪かったロゼが、今までの鬱憤を晴らすべく縄を引き千切って吠えた。
羽根という羽根全てを逆立て、嘴をバチンバチンと激しく打ち鳴らす様に恐怖を覚えたのだろう、男は逃げる為に後ろを向く。
そのまま走り去ろうとするその背中に向けて、キアは慌てず右手の人差し指と中指を揃えて立てて振り下ろした。
「行け!!」
言うが早いか、合図を貰ったロゼが敷石を蹴り、巨体に見合わぬ俊敏さで以て男の前に回り込む。
大口を開けて待ち構えるドラゴンに恐れが極みに達し、減速した弾みで派手に転がり、顔面を打ち付けて気絶した。
「…………あの気性が荒いにも程がある"朱雀"を、よくもまぁここまで思い通りに動かすもんだ」
「スザク?」
耳慣れぬ花龍の言葉に首をかしげれば、ダンカンは警軍を呼ぶために携帯端末を操作しながら答える。
「フェザーの血が入った雑種の中でも、特に体色の赤が強い系統を花龍じゃあそう呼ぶんだと。アルビオンじゃこいつ以外に見たこと無いが、昔花龍で見た奴は恐ろしく気の荒い奴でな、何でもかんでも食いちぎろうとしやがった」
端末をパチンと閉じたダンカンは、抜かれたポールについては何も言わずにロゼを労るようにぽんぽんと首を叩いた。
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