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『早くしろ』と云うキアの念力が通じたのか、マージは指を数え折る。
「ドンペリに、モエ・エ・シャンドンに、カッツ・ゼクト、カルロ・ロッシ―――」
「商品名じゃねぇよ。色の話」
「あら、飲むんじゃないの?」
「だから飲まねぇって!寝言は寝て言え!!」
切れそうな堪忍袋の尾を気合いで繋ぎながら、キアは喚く。
たとえキレても、何をした所でマージには絶対勝てないのだが。
「赤か白、後はロゼくらいかしら。一般的なのは」
「ちょい待ち。赤とロゼって何が違うんだ?」
「やぁねぇ、これだからお子ちゃまは。ま、良いわ。お姉様が教えてア・ゲ・ル♪」
「付けるモン付けた野郎が何寝言言ってやがる………」
声にならないような小声で呟き、キアは視線を泳がせた。
聞かれたら、間違いなく殺される確信があった。
「ん~、これはサンプルだけど良いわよね。結構違うでしょ?」
そう言ってマージが腰に巻いたベルトから、小さな酒瓶を二本外した。
サンプルを一々持ち歩いているのは、道で客を引っ掛ける時に使うからだ。
道で飲ませて、相手が味を気に入ればそのままオカマバー(キアはそう思っている)まで直行だ。
見た目はアレだが、マージの所の酒はマズくない。
透明な瓶に入れられた二種類のワインは、片方が濃い赤色、もう片方が透けるような薄紅色をしていた。
「こっちが赤で、この薄いのがロゼ。ロゼは赤より飲み口がまろやかで甘味が強いのよ」
「俺が飲まないの知ってるだろ。飲み口まで聞いてない。でも……そうだな………」
思案し始めたキアの頭によじ登った幼竜は、特等席からの眺めを再び堪能する。
ただし、マージの方だけは見なかった事にして。
「………よし」
うんうんと頷いてから、キアは幼竜の方へ目線だけ動かした。
「今からお前はロゼだ」
「ピァ?」
「え~、赤に因んでレッドとかじゃなく?」
不満そうな声を漏らすのは、やはりマージだ。
そんなマージへ、キアは至極当然のように言う。
「俺のドラゴンなんだから、俺に命名権が有って当たり前だろ?マージの希望も考えたし」
あまりに爽やかな笑顔で、しかもそう言われてしまえばマージに反論は出来なかった。
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