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1909年(明治42年)
明治後期。
日露戦争が終わり、明治から大正に変わる少し前。
時代は少しずつで在るが、確実に変わりつつあった。
外城田と云う華族の家の長男としてわたしは生を受けた。
不幸の発端。
わたしの祖父母にあたる人達が揃って不幸な事故で急死した。
車の事故。
停車中、居眠り運転の車が突っ込んで来て、車に乗って居た者揃って全員が救い様無く死んだ。
御家の総てを慄然と支配し、悠然と維持していた家長の祖父と、それを時に表なり時に裏なりと支えてきた細君の祖母。
絶対的だった存在を揃って一瞬で失ったのは、外城田家にとっては致命的と云えた。
一人息子の父が家を継いだ。
急遽、慌ただしく。
父はまだ若く結婚もしたばかりで、まだ母の腹にわたしが居た。
祖父とは違って世間知らずの父は直ぐに悪人に付け入れられた。
悪人にいい様に操られ瞬く間に殆どの財産を失ってしまった。
周りに居た沢山の人々はとばっちりを恐れ、一人、また一人と離れていった。
なれど、当主である父は華族と云う名にしがみ付いては、素知らぬ振りをして今迄と何ら変わり無い今生を続けた。
華族と云っても、たかだか伯爵の末端。
賜金、爵禄なんて具体的な恩恵は無く、財産が無ければ収入は無い。
当然、家は傾むき寂れた。
わたしが物心付く頃には、外城田家の其処かしこに死神の影がチラチラ見えていた。
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