1909年千之助0~10歳

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    早くに死んだ母の思い出なんてものは大して無い。 只、ぼんやりと覚えているのは薄幸の笑顔。 良家のお嬢様として育てられ、華族の嫁としてこの家に来て寿命を縮めた。 世間にも不幸にも夫にも立ち向かうすべをもたなかった母。 運命に殺された母。 「阿母様」 そう呼ぶと、いつも儚く笑った。 母の身体は日増し弱り切り、衰弱していった。 不幸と云う名の病気の薬。 それは幸せだ。 安穏だ。 金だ。 だが、そんな物は一つも無かったし、父は何もしなかった。 父にとって母は 祖父に決められて結婚しただけの相手で それが例え女であろうと置物であろうと関係無いようだった。 母は死んだ。 母は脆く死んだ。 わたしが未だ5歳の時だった。 その時は、死を解っていたのかも怪しく、ただひたすら泣きじゃくった様な気がする。 今はもう悲しかったのかすら思い出せない。  
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