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早くに死んだ母の思い出なんてものは大して無い。
只、ぼんやりと覚えているのは薄幸の笑顔。
良家のお嬢様として育てられ、華族の嫁としてこの家に来て寿命を縮めた。
世間にも不幸にも夫にも立ち向かうすべをもたなかった母。
運命に殺された母。
「阿母様」
そう呼ぶと、いつも儚く笑った。
母の身体は日増し弱り切り、衰弱していった。
不幸と云う名の病気の薬。
それは幸せだ。
安穏だ。
金だ。
だが、そんな物は一つも無かったし、父は何もしなかった。
父にとって母は
祖父に決められて結婚しただけの相手で
それが例え女であろうと置物であろうと関係無いようだった。
母は死んだ。
母は脆く死んだ。
わたしが未だ5歳の時だった。
その時は、死を解っていたのかも怪しく、ただひたすら泣きじゃくった様な気がする。
今はもう悲しかったのかすら思い出せない。
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