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わたしの新しい父。
義父、笹川義一郎。
実父の古くからの知り合いで、外城田家には商売の関係でよく出入りしていた。
良く云えば、真面目。
悪く云えば、面白味の無い男って処だろう。
歳は死んだ実父と同じらしいが、義一郎の方がずっと老けて見える。
笹川義一郎は商人だ。
普段はのっぺりとした何を考えているか判らないような顔をしている癖に、商売となると恵比寿の様な笑みを見せた。
わたしは、華族から商人の息子になった。
生活はほぼ正反対と云っていい。
理にかなっていて、無駄を極限迄減らした生活。
優雅を排泄した、鄙びた暮らし。
そして一般的な教育を施される。
学校にも行く事になった。
俄然、世界は広がった。
数術、歴史、外國語、泳ぎ…
だが、いくら世界を學び、智慧を吸収しても、決してそれらと交わったりはしなかった。
当たり前の様に、自身は異質だった。
学校にも行きたい時にだけ行った。
父が言い残した十番町の三本辻も何処に有るのか直ぐに判った。
意外にも近く、学校へ通う路を少し外れれば行き着けそうだったが、わたしがその場所へ足を向けることは無かった。
それは父の遺言に対して悪感を持ち反している訳では無く、用事が無いから行かない、と云う程度のものだったが。
日々は不自由無く過ぎていき、わたしはわたしの儘、成長した。
外城田家に居た時の様に、毎日美しい物にだけ囲まれて居ると云う訳にはいかなかったが、笹川家の鄙びた生活も悪くは無かった。
笹川家には、朝子が居た。
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