1919年千之助10~17歳

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    笹川義一郎の妻、朝子。 醜女。 醜く複雑な女だった。 ごつごつして骨張った鰓の出た顔。 細く落ち窪んだ目。 その癖大きな鼻と口。 ひどく吊り合いが悪い。 いかにも頑丈そうな骨太の身体。 怒り肩。 浅黒い肌。 顕らかに 美とは掛け離れていた。 朝子はわたしを嫌っていた。 いや、嫌おうとして居た、が正しいか。 わたしは華族らしい、涼やかで調った顔立ちをして居た。 そして何より優美を、風雅を兼ね備えていた。 10歳の時にはすでに品格を自覚して居た。 わたしは商人の息子に成る気は毛頭無かった。 誰に何と言われようが自分の中の規律しか守る気は無い。 既に形成され切って居る美観を起因とした行動しかしない。 その癖、気紛れで下々の者とも戯れたりもした。 言い付けを一つだって守ろうとはしないわたしを朝子は躾け、叱ろうとしたが わたしの、生まれたばかりの仔犬の様に潤んだ瞳に見つめられた時、朝子は無力だった。 朝露の様に純然たる無垢な美に、為すすべ無く屈する朝子には ありありとした 屈辱と苦難が見えた。 憎むべきわたしを朝子は嫌おうとしたが、心底では愛さずには居られなかった。 葛藤に苛まれ、醜い顔を更に歪ませた。だからこそわたしは、この滑稽な義母に心惹かれた。 実母以上に。
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